Over 10 Years – UNITEA Vol.3 –

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Over 10 Yearsは、誕生から10年を経たKINTOのロングセラーアイテムにフォーカスして、ものづくりに込められたストーリーを届ける企画です。2006年に発売したUNITEAのデザインを手がけるプロダクトデザイナー柴田文江さんは、やわらかな感性で数多くの日用品のデザインを手がける日本を代表するデザイナーの一人です。そんな柴田さんに日常を豊かにするデザインについてお話を伺いました。
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—デザインをする上で心がけていることを教えてください。

柴田:UNITEAに関していえば、自分もヘビーユーザーなので、リアリティを持ちながら考えることを大切にしています。自分の作品でありながら自分のものではない、誰かの暮らしの道具になることを意識してデザインしています。結果的に私らしいデザインにはなるとは思うのですが、意識としてはそのような気持ちでデザインしています。

—柴田さんのやわらかなフォルムをもったデザインは、使う人の気持ちを穏やかにしてくれる作用があると思います。

柴田:そう言っていただけるととても嬉しいです。ただ、カタチに関しては意識してそうしているわけでは全くないんです。毎回、違うものを作りたい、今までとは違う自分を出したいという気持ちがあって、時に直線的なものを作ろうと思うこともあるのですが、結果的にそうはなりません。違うものをと意識すること自体、デザインにおいては不自然なことだと思っています。ものと真剣に対峙していくと、こうしたいという欲が一切なくなっていきます。用途や素材に対して適切なものを作っていくと、丸みのあるふわっとしたものに自然となっていきます。
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—テクノロジーが発達した現代において、デザインに対する考え方や役割が、変わった部分もあると思います。例えば3Dプリンターで好きなものを誰もが簡単にカタチにすることもできるようになりました。そのような時代におけるデザイン、そしてデザイナーの役割はどのようなものだとお考えですか?

柴田:難しいのですが、カタチや機能だけでなく、暮らし方や生き方に対して、いろんな価値観があるという、ある種のビジョンを提示するのもデザイナーの仕事だと思っています。
リッチなものを使う幸せ、シンプルで素朴なものを使う幸せといろいろあると思います。昔は物をたくさん持っていたり、お金持ちになることが幸せであったりしたと思います。でも今はそういったことが必ずしも幸せには結びつかないということにみんなが気づいたと思うんです。
そういった意味では私の場合は、デザインでこういう幸せもあるのでは?ということを世の中の人たちに提示すことも大切な役割ではないかと思っています。それはいろんな幸せのベクトルをつくることで、UNITEAに関しては、ガラスの新しい使い方、それまではなかったひとつの方向性をデザインで示すことでした。
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—確かに、人は今とは違う生き方があると知ることで、今より楽に身軽に生きるきっかけをつかめるようになることもあると思います。そんな柴田さんは様々なデザイン賞の審査もされていて、いろいろなものをご覧になっていると思うのですが、柴田さんにとってよいデザインとはどのようなものでしょうか?

柴田:今の時代においてはよいデザインとは何か?というアプローチではなくて、誰もが生活の実践者として、これがいいデザインなんじゃない?と手探りしながら進む時代だと思うんです。かつては、これがいいですよと旗を振ってくれる人の方向に進むところがあったと思うのですが、今はインターネットなどでユーザーのフィードバックがはっきりとわかるし、デザインの専門家ではなく、生活者の視点からこれがいいよと社会に言える環境があります。
だからみんなの知恵を持ち寄って、よいデザインとは何かをつねに考えていることが重要になってくると思います。これからはみんなでよりいい方向性を一緒になって探していくという時代だと思っています。まるで禅問答のようですけど、みんながこれがよいデザインなんじゃない?と探っていくことがよいデザインなのではないでしょうか。

(インタビュアー/テキスト 加藤孝司)

DESIGNER PROFILE

柴田文江

柴田文江

 

プロダクトデザイナー / デザインスタジオエス代表。
エレクトロニクス商品から日用雑貨、医療機器、ホテルのトータルディレクションまで、インダストリアルデザインを軸に幅広い領域で活動をしている。代表的な作品に、無印良品「体にフィットするソファ」/オムロン「けんおんくん」/カプセルホテル「9h (ナインアワーズ)」/JR東日本ウォータービジネス「次世代自販機」/庖丁「庖丁工房タダフサ」/木のおもちゃ「buchi」などがある。武蔵野美術大学教授。著書「あるカタチの内側にある、もうひとつのカタチ」(ADP)。